公孫龍子

明末の叢書に収録された『公孫龍子』

公孫龍子』(慣用音: こうそんりゅうし、漢音: こうそんりょうし、拼音: Gōngsūnlóngzǐ、『公孫竜子』とも)は、古代中国戦国時代の書物。諸子百家の名家の公孫龍の「白馬非馬論」などを伝える。全6篇。

  1. 跡府
  2. 白馬論
  3. 指物論
  4. 通変論(通變論
  5. 堅白論
  6. 名実論(名實論

現代の学者によって順番が入れ替えられることもある[1][2]。この順番は道蔵本による[3]

成立・伝来

目録学
分類法・分類項目
目録学者

現行本の成立年代や偽書の可能性については、加地伸行によれば、戦国時代当時の真作であるというのが定説である[4]。ただし、跡府篇はその体裁や内容から、公孫龍本人ではなく門弟(公孫龍後学)の思想を伝えるものとされる[4][5]

漢書芸文志には『公孫龍子』14篇とあるが、南宋の『直斎書録解題』で6篇に減少し、現行本も6篇からなる[6]

隋書経籍志には、『公孫龍子』が載っていない代わりに『守白論』1巻という書物が道家類に載っている。また南宋の『通志略』には、名家類の『公孫龍子』とは別に、道家論類に『守白論』が載っている。「守白論」「守白之論」という言葉は、『荘子』天下篇の成玄英や『公孫龍子』跡府篇において公孫龍に帰されることから、この『守白論』が『公孫龍子』と同一(または関連する)書物であるとする推定もある[7]

内容・受容

「名家 (諸子百家)」も参照

前近代においては、意味不明な奇説・邪説を説く悪書として、長らく悪評高かった[4][注釈 1][注釈 2]。しかし清代考証学の時代になると、従来の悪評は過剰とみなされるようになった[注釈 3]。近代以降は、『墨子墨弁と並ぶ「中国論理学」の文献として注目・高評価されるようになり、前近代までと一転して盛んに研究されるようになった[9]

『公孫龍子』は極めて難解な文献であり、伝存状態も悪く、また『論語』にとっての集注にあたるような、伝統的に読まれた注釈書も無い。そのような事情から、『公孫龍子』の訳注は大抵、学者各人の仮説に基づく試論的な訳注になっている。

注釈書・訳注

前近代

  • 唐・陳嗣古注 - 現存しない。『旧唐書経籍志[10]および『通志略』[11][12]所載。
  • 唐・賈士隠注 - 同上。
  • 北宋・謝希深『公孫龍子注』 - 現存最古の注。『四庫提要』や狩野直喜によれば「浅薄で採るに足らない」注[6]
  • 北宋・陳景元(中国語版)『南華真経余事雑録』- 『公孫龍子』が抄録されている。『荘子』の注釈書『南華真経章句音義』の付録[13]
  • 明末・楊慎『公孫龍子評注』[14][15]
  • 清初・傅山『公孫龍子注』[16]
  • 清・陳澧『公孫龍子注』[17]
  • 清・辛従益(中国語版)『公孫龍子注』[16]
  • 清・兪樾『読公孫龍子』[17](『兪楼雑纂』所収)NDLJP:2582627
  • 清・孫詒譲『札迻』巻6 [18][15]

近現代

日本語以外

  • 王琯(中国語版) 『公孫龍子懸解』 中華書局新編諸子集成(中国語版)〉、2014年 [初出1930年] ISBN 978-7101099911。
  • 譚戒甫(中国語版)『公孫龍子形名發微』 中華書局〈新編諸子集成〉、2013年 [初出1953年] 。ISBN 978-7101002706。
  • 龐朴(中国語版)『公孫龙子研究』中華書局、1979年。NCID BN10768460
  • Graham, A.C. (1989), Disputers of the Tao: Philosophical Argument in Ancient China, Open Court, ISBN 978-0812690880 (『公孫龍子』本文解釈を含む)

ほか。

日本語

  • 小柳司気太『国訳公孫龍子』国民文庫刊行会〈国訳漢文大成〉、1924年
  • 大浜晧「公孫龍」『中国の思想家 上巻』東京大学中国哲学研究室編、勁草書房、1963年、新装版1987年、ISBN 978-4326150236
  • 宮崎市定「公孫龍子の研究」『宮崎市定全集 5 史記』岩波書店、1991年、復刊1999年。(初出1964年『東方学報』第36册。1978年『アジア史研究 第5』にも収録)
  • 天野鎮雄『公孫竜子』明徳出版社〈中国古典新書〉、1967年
  • 加地伸行『加地伸行著作集1 中国論理学史研究 経学の基礎的探求』研文出版、2012年(原著1983年)。ISBN 978-4876364022。 (『公孫龍子』訓注を含む)
  • 浅野裕一『古代中国の言語哲学』岩波書店、2003年。ISBN 978-4000228336。  (『公孫龍子』訓注を含む)

ほか。

参考文献

  • 浅野裕一『諸子百家』講談社〈講談社学術文庫〉、2004年(原著2000年講談社)。ISBN 978-4061596849。 
  • 狩野直喜『中国哲学史』岩波書店、1953年。ISBN 978-4007300363。 
  • 関口順「釈名辯――「名家」と「辯者」の間」『埼玉大学教養学部紀要』第29号、右65-83(左169-187)頁、1993年。 
  • 高田淳「名弁の思想(1):公孫竜の思想」『東洋学報』、東洋文庫、1962年。http://id.nii.ac.jp/1629/00004887/ 
  • 高田淳 著「先秦「名家」の思想」、宇野精一・中村元・玉城康四郎 編『講座東洋思想4 中国思想3 墨家・法家・論理思想』岩波書店、1967年。ISBN 978-4130140546。https://dl.ndl.go.jp/pid/2969196 
  • Indraccolo, Lisa (1981), Gongsun Long and the Gongsun Longzi: authorship and textual variation in a multilayered text, Università Ca' Foscari Venezia, https://hdl.handle.net/10579/922 

外部リンク

中国語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります。
公孫龍子
  • 『公孫龍子』 - 中国哲学書電子化計画
  • Theobald, Ulrich. “Chinese Literature - Gongsun Longzi 公孫龍子” (英語). www.chinaknowledge.de. 2021年3月7日閲覧。

脚注

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注釈

  1. ^ 南宋陳振孫直斎書録解題』、南宋の黄震『黄氏日鈔』読諸子、元末明初宋濂『宋文憲公全集』巻27諸子辯など[4]
  2. ^ その他の受容者として、桓譚、爰兪(爰邵(中国語版)の孫)、『沖虚白馬非馬論』の著者とされる張游朝(張志和の父)、『文苑英華』巻758所収『擬公孫龍子論』の著者、が挙げられる[8]
  3. ^ 四庫提要』や厳可均(中国語版)校訂本[4]

出典

  1. ^ 加地 2012, p. 139.
  2. ^ 譚 2013.
  3. ^ 加地 2012, p. 133.
  4. ^ a b c d e 加地 2012, p. 121-122.
  5. ^ 浅野 2004, p. 190.
  6. ^ a b 狩野 1953, p. 249.
  7. ^ 加地 2012, p. 127;133(欒調甫の説として紹介した上で、判断を保留している。).
  8. ^ 高田 1967, p. 234.
  9. ^ 関口 1993, p. 75;81.
  10. ^ “舊唐書卷四十七 第20頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃” (中国語). ctext.org. 2021年2月13日閲覧。
  11. ^ “通志略 第119頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃” (中国語). ctext.org. 2021年1月30日閲覧。
  12. ^ “全國漢籍データベース 四庫提要”. kanji.zinbun.kyoto-u.ac.jp. 2021年2月13日閲覧。
  13. ^ 加地 2012, p. 127-128.
  14. ^ “公孫竜子 / 公孫竜 撰 ; 楊慎 評註”. www.wul.waseda.ac.jp. 2021年3月7日閲覧。
  15. ^ a b 小柳司気太『国訳公孫龍子』解題
  16. ^ a b Indraccolo 1981, p. 82.
  17. ^ a b 加地 2012, p. 168.
  18. ^ “札迻 第270頁 (圖書館) - 中國哲學書電子化計劃” (中国語). ctext.org. 2021年3月14日閲覧。
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