正中菱形舌炎

正中菱形舌炎
概要
診療科 口腔内科学
分類および外部参照情報
ICD-10 K14.2
ICD-9-CM 529.2
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正中菱形舌炎(せいちゅうりょうけいぜつえん、Median rhomboid glossitis)は、病気の一つ。舌背部正中後方1/3の部位に菱形、楕円形の乳頭のない赤い平滑な部分が存在する状態。正中菱形舌炎という名称であるが、真の炎症ではなく「非炎症性の病変」である[1]。二次的に炎症が見られる場合もあるが、自覚症状は乏しく歯科医院に受診した際に発見されることが多い[1]。二次的な炎症等がなければ、治療の必要性はない。

原因

現在のところその原因は不明である。

最も有力な説は胎生期において通常萎縮する不対結節(無対結節)が残存することによるとされている[2][1]が、小児に発生が少ない[3]ことから、他の原因も考えられており、真菌であるカンジダ・アルビカンスによるものであるとの説が有力となってきている[3][4]

これ以外に、梅毒アレルギー反応鉄分ビタミンBの不足、喫煙義歯の使用、ホルモン失調、糖尿病等の説があげられたことがある[5]

症状

時にしみることがある[4]他、二次的な炎症による発赤・疼痛が見られる場合もある[6]が、自覚症状は乏しく歯科医院に受診した際に発見されることが多い[1]

治療

処置の必要はないが、二次的に炎症が発生した場合には消炎が行われる[6]。カンジダが原因と疑われる場合には、抗真菌薬の使用もある[3]

検査

病理標本は、表層:平坦で有郭乳頭糸状乳頭が消失[2]上皮過形成or異形成粘膜固有層リンパ球の増殖や形質細胞の浸潤などの炎症所見を示すとされる[7][8]

臨床診断で本疾患と診断された患者で、病理診断にて扁平上皮癌と診断された患者も2005年までに4例報告があり[7]、また、発癌前に本疾患を発症していた患者に硬結や結節状の腫瘤を認める患者が多いことから、これらの症状を持つ場合には病理検査を行うべきであるとの考えも存在する[7]

鑑別

上記の通り、扁平上皮癌との鑑別が必要な場合があるほか、メキシレチンによる薬疹で本疾患と類似した症状が発生したとの報告がある[9]

疫学

有病率はHarperinが1953年に全年齢に対して行った調査では0.32%、下野らは0.25%~1.3%と報告しており[2]、東北大学が1989年におこなった日本人での調査では0.2%であった[1]。男性に多いとされる[2][8][10]

出典

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e 高橋ら
  2. ^ a b c d 下野ら, p.66
  3. ^ a b c 栗田, p.70
  4. ^ a b 南雲, p.100
  5. ^ 張ら
  6. ^ a b 由良, p.179
  7. ^ a b c 吉冨ら
  8. ^ a b 石田ら, p.140
  9. ^ 狩野
  10. ^ 山本, p.176

参考文献

  • 石田武、朔敬、山本浩嗣 著「7.口腔の粘膜疾患」、高木實 編『口腔病理アトラス』(第1版)文光堂東京都文京区、1998年2月25日、140頁。ISBN 4-8306-7002-9。 
  • 狩野葉子「【薬疹を見逃さないために】 意外な薬疹 正中菱形舌炎を思わせたメキシレチンによる薬疹」『Visual Dermatology』第1巻第3号、秀潤社、東京都品川区、2002年5月、268-269頁。 
  • 栗田賢一 著「III 炎症・アレルギー疾患 3.舌炎及び類似疾患」、栗田, 賢一、覚道, 健治、小林, 馨 編『SIMPLE TEXT 口腔外科の疾患と治療』監修 河合幹(初版)、永末書店京都府京都市、1998年11月23日。ISBN 4-8160-1071-8。 
  • 下野正基、野間弘康、山根源之、田中陽一、井上孝 著、下野, 正基、野間, 弘康、山根, 源之 編『アドバンス・シリーズ 1 口腔外科・病理診断アトラス』監修 石川達也、内田安信、稗田豊治、平沼謙二(第1版第2刷)、医歯薬出版東京都文京区、1994年8月30日。ISBN 4-263-45161-9。 
  • 高橋紀子・島田義弘「定期歯科検診で検出された某高専校学生における舌疾患の有病状況」『東北大学歯学雑誌』第8巻第1号、東北大学歯学会宮城県仙台市、1989年6月、19-27頁、ISSN 0287-3915、2009年2月15日閲覧 
  • 南雲正男 著「第2章口腔・顔面の疾患 6.口腔粘膜疾患および類似疾患」、佐藤, 廣、白数, 力也; 又賀, 泉 ほか 編『口腔顎顔面疾患カラーアトラス』監修 道健一(第1版)、永末書店京都府京都市、2000年11月26日。ISBN 4-8160-1099-8。 
  • 山本浩嗣 著「11章顎口腔の発育異常 III口腔,舌の発育異常」、二階, 宏昌、伊集院, 直邦、下野, 正基 編『歯学生のための病理学』 口腔病理編(第2版)、医歯薬出版東京都文京区、1999年5月10日。ISBN 4-263-45438-3。 
  • 由良義明 著「6章口腔粘膜疾患 10舌の病変 3正中菱形舌炎」、白砂兼光古郷幹彦 編『口腔外科学』(第3版)医歯薬出版東京都文京区、2010年3月10日。ISBN 978-4-263-45635-4。 NCID BB01513588。 
  • 吉冨泉・川崎五郎・柳本惣市・吉田一・水野明夫・藤田修一「舌背正中部に発生した扁平上皮癌の1例」『日本口腔外科学会雑誌』第51巻第5号、日本口腔外科学会東京都港区、2005年5月、244-247頁、ISSN 0021-5163、NAID:10018955208,J-GLOBAL ID:200902245267047965,整理番号:05A0487158。 
  • 張皿・吉沢浩毅・中西英子・舩越啓右・福山宏・吉岡泉・村木祐孝・福田仁一・村田朋之・黒川英雄・梶山 稔「正中菱形舌炎の 3 症例/Median Rhomboid Glossitis : Three Cases Report」『九州齒科學會雜誌』第51巻第5号、九州歯科学会福岡県北九州市、1997年10月、699-704頁、ISSN 0368-6833、2009年2月15日閲覧 

関連項目

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